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ブログ
麒麟百句(2023.10.19)
『鶉』
へうたんの中に見事な山河あり
絵が好きで一人も好きや鳳仙花
桔梗のつぼみは星を吐きさうな
いきいきと秋の燕や伊勢うどん
ばつたんこ手紙出さぬしちつとも来ぬ
とびつきり静かな朝や小鳥来る
冬ごもり鶉に心許しつつ
お雑煮のお餅ぬーんと伸ばし食ふ
鰆食ふ五つの寺をはしごして
俊寛に鰹が釣れてよき日かな
『鴨』
見えてゐて京都が遠し絵双六
獅子舞が縦に暴れてゐるところ
ささやかな雪合戦がすぐ後ろ
友達が滑つて行きぬスキー場
栃木かな春の焚火を七つ見て
雛納め肌ある場所を撫でてをり
涅槃図を巻くや最後に月を見て
尾道の光の海も春ならん
ぷつぷつと口から釘や初桜
桜より遠ざかりゆく坂長し
烏の巣けふは烏がゐたりけり
どこまでも真つ直ぐ奈良や夏燕
灯を提げて人美しき祭かな
新緑の長々とある方の道
あやめ咲く和服の人と沼を見て
紫陽花や傘盗人に不幸あれ
手を舐めて脚舐めて蟻働かず
鰻重を真つ直ぐ伸びてゆく光
大いなる遅刻が一人日の盛
ヨット部のヨット何度も倒れをり
朝食の西瓜が甘し思ひ出帳
八月のどんどん過ぎる夏休み
盆唄に絶頂のあり佃島
柄の長き奈良の団扇を秋にまた
あをあをと印度の神や花カンナ
一人来てそのまま一人菊供養
冬の日や東寺がいつも端に見え
俊成は好きな翁や夕焚火
冬の鳥一生降りて来ぬ如く
鴨流れ次の一羽もまたゆるく
金屛の江戸はもくもく雲浮かべ
燕や音の少なき街に立ち
腸捻転元に戻してから昼寝
少しづつ人を愛する金魚かな
起し絵の清水一角雪を踏み
草相撲代りに行つて負けにけり
砧打つ千年前の科挙に落ち
梨食うて夜空を広く思ひけり
肉食べに秋の群馬へ二百人
金沢の見るべきは見て燗熱し
『鴨』以降
平成は静かに貧し涅槃雪
適当に走り回つてゐる蟻も
インバネス死後も時々浅草へ
虫売の細字すずむしくさひばり
歩きつつ人物評や曼珠沙華
猪の大きく曲がり再び来
日と月と描きし椀やふぐと汁
へうたんに紐色々や花の春
双六や一人で遊び直す子も
壷焼きや醤油の色の泡を吹き
花冷の黒々と夜や吉野山
蝸牛の顎を浮かせて曲がりけり
蔓ものの大わがままや夏の月
着崩れていよいよ楽し沖膾
分かれ落つ一塊や子かまきり
輪郭の輝いてゐる鶫かな
風吹いて馬糞の匂ふ梨の町
すき焼きの大きな肉をずるずると
冬紅葉風に吹かれてゐる姉よ
うつとりと見る横浜や年忘れ
桜餅そのまま昼の酒となり
わらび売ざつと袋に入れ呉れし
海胆の棘海を探してゐるらしく
祭笛大泣きの子が歩きをり
太閤の小さき顔やお風入れ
瓢棚次から次に休みに来
秋澄むや古き聖書の絵の如く
鉛筆で描く白萩も紅萩も
黄落や我に居場所のある如く
冬の蝶羽を再び広げかけ
鰡が跳ね東京の川らしくなり
綿虫やぼろぼろなれど美味き店
手毬唄影が濃くなり薄くなり
業平に弓と矢のある歌留多かな
蛇穴を出でて酒税に驚きぬ
投扇興金箔入りの酒を飲み
古雛や涙の如く目が光り
あさり飯売るや頭にタオル巻き
夏蝶や光より逃げ手より逃げ
サッフォーの巻き毛に夏の来たりけり
風薫る古代ローマの服が欲し
風鈴や市川と呼び真間と呼び
水枕秋のかもめを夢で追ひ
宇津田姫鷗の中をすたすたと
鼻大き壁画の僧や春の山
白椿あなたあなたと話しかけ
ゆく春のこれは重たき海老フライ
なめくぢの雨を嫌がりつつ雨へ
肺炎の日々朝涼し夕涼し
墨涼し四角に足を足せば蟹